解体の日が近づき、既に三日前となっていた。本日、廃車の手続きが実施される予定である。毎朝8時に行われる車輌整備課の朝礼の時、社長の久北が駆け込んできた。課長を勤める田辺も想定外だったようで、口をパクパクさせている。
「諸君、朝礼の邪魔をしてしまって申し訳ない。急遽、車輌整備課に用件が出来たために来させてもらった。今朝、蒼軌道一級保線技師のぺたぞう様から連絡があった。用件は、砂川鉄道から無限軌道国際会議への出展を行わないか、と言うものだった。せっかくなので出展するという返事をしたのだが、車両をどうするかは決めていなくてね、諸君らに決めて貰いたいと考えたのだ。何かいい車両は無いかね?」
久北は相変わらず誰も予想しないような提案を、会社に持ち込んでくる。
「無限軌道国際会議って、1年に一回の鉄道の祭典ですか?そんな急に言われても、適切な車両をすぐには用意できませんよ。フラノラベンダーエクスプレスに至っては、國鉄から借りた車両でやりくりをしてますし、他の車両だって、夏の繁忙期は手一杯ですよ」
田辺はいつも以上に頬を震わせながら、社長へと抗議した。古株の田辺には、ある程度社長への意見が出来る立場にある。
「解体予定のトマムサホロエクスプレスを整備して、持ち込むのはどうでしょう?」
白矢は久北をも上回るような、突飛な提案をしていた。
「やめなさい、白矢君。あの車両は今日付けで廃車手続きを行うんだぞ」
田辺は、突飛な提案を行った白矢を制止しようとする。
「まだ、手続きは始まっていませんよね?」
白矢も負けじと返す。
「だったら、手続きを止めに行けばいいんじゃないか?白矢君、特別だ。今から時間を与えよう。今日中に廃車手続きを止め、出展への整備の段取りがつけられるならば、君の提案を受け入れよう。ただし、今日中だ」
久北は柔軟な対応をしてくれた。しかし、時間は十分には与えてくれなかった。
「わかりました、今から話をつけてきます!」
そう返答し、白矢は走り始めていた。これでトマサホを救うことが出来るかもしれない。不意に湧いた一筋の希望の光を掴むために、白矢は走る。
「田辺課長、白矢君の今日のシフトは誰かに代えてやれ。そして、間に合わなかった時のために、代替案は考えておいてくれないかね?」
「わ、わかりました」
突然、仕事が増やされた田辺は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。