Sunagawa Railway

改造プラレールや保存車・廃車体をメインに取り扱っています。

外伝Ⅰ第4話「函館本線、車内警戒」

 「おっと、動かないでくださいね。下手に動くとひどい目に遭いますよ……ククク」

 気が付くと首元には冷たい感触があり、背後には小柄な人物が張り付くように迫っていた。迂闊だった、第三警備班の鬼と呼ばれた長崎もこの至近距離ではどうにも出来ない・・・・

 

話は少し前に遡る。不審な音を感じて1号車へと移動した長崎、一段下の乗務員室には車掌と茶髪の女性、通路にはダガーを持った巨漢が立ちふさがっている。付近の乗客は通路から逃れるように窓の方に寄っている。巨漢の服装はハイカーのような、オレンジの目立つジャケットだ。

「なんだ、お前。2号車から来たのか?いいからそこの席に座れ」

オレンジの巨漢はダガーを見せつけるように振り回しながらこちらに迫ってくる。乗務員室にいる女が何を持っているかわからない今、下手に動くのは危険。しかし、このまま座ってしまえば次のチャンスは訪れないだろう。

「早く座れ、座るんだ」

巨漢は大きな声を出しながら近づいてくる。距離にして5m、4m、動くごとに近づかれる乗客はざわつく。

「君たちは何をしてるんだ」

「見てわからねえのかおっさん、ダガー持ったヤツが車内に立ってるんだぜ。自分の立場をわきまえて早く座れや」

「私たちは人質ってことか」

「わかりゃ、いいんだよ。あんたら乗客は國鉄に対する俺たちの活動の人質ってわけ、わかったら座ってもらおうか」

「余計なことを言うんじゃないわよ別府」

「わーってるよ、宇佐」

乗務員室から女性も口を出してきた。案の定、女性も仲間のようだ。長崎は座席に座るため少し進み、通路から外れる。巨漢との距離は2mを切った。

「ほら、早く座れ」

「ウッ」

長崎は1mに迫った巨漢の顎に思いっきり蹴りを入れる。

「あんだ、おあえ、あるのあ」

舌をかんだのか、うまく発音できていない。力も抜けたのか、ダガーは床に落ちる。金属音に反応し、乗客はざわつき始めた。間髪を入れずに男のジャケットを掴み姿勢を下げる。

「おあ」

長崎の背負い投げを食らった巨漢は、華麗に宙を舞い床に叩きつけられた。

「おおー」

ざわついていた乗客たちは関心の声を寄せる。巨漢が気絶したのを確認し、ナイフを回収する。

「ボディーガードはもう居ない。大人しく車掌を離しなさい」

「まだ、自分の立場がわかっていないようね」

刹那、長崎の頬を熱いものが過ぎ去る。女は銃口をこちらに向けていた。跳弾した弾は車内照明を破壊、ガラスが車内に降り注ぐ。先ほどまで歓声を上げていた乗客たちは一斉に悲鳴を上げ始めた。

「見た目だけでボディーガードにすらならない別府と私は違うの」

「君はさっきの」

「あら、思い出してくれた?高田が富良野駅で悪目立ちするもんだから、計画に支障が出るんじゃないかと危惧してたけど、さっきのオジサマがしゃしゃり出てくるとはね」

「やはりあの金髪も仲間か、砂川駅で下りていったように見えたがどうしてるんだ」

「さあね、ご想像にお任せするわ」

乗務員室で銃を持つ女は、富良野駅で揉めた金髪と一緒にいた女性だった。

「さて、どうする?オジサマがいくら武道に長けていても銃には勝てないんじゃないの?」

女は色っぽい笑みを浮かべながらこちらを見る。

「あいにく俺は武道だけで生きているわけじゃないんだな」

回収したダガーを持ち、威嚇する。

「そ、れ、と、オジサマがそれ以上近づくようなら車掌の命は無いわ」

残忍な表情へと変わった女は、車掌に銃口を向けた。

「ひぃっ」

車掌の目には恐怖の色が映っている。

 「おっと、動かないでくださいね。下手に動くとひどい目に遭いますよ……ククク」

 気が付くと首元には冷たい感触があり、背後には小柄な人物が張り付くように迫っていた。迂闊だった、第三警備班の鬼と呼ばれた長崎もこの至近距離ではどうにも出来ない。ダガーを床に捨て、大人しく手を挙げる。

「まさか、車内で反撃に遭うとは思いませんでしたね。1号車から銃声が聞こえて駆けつけてみれば別府はおねんねしてるし、宇佐は発砲して車掌を拘束ですか。あなたたちは何をやっているんです?そしてこの男は何者なんですか?」

「うるさいわね国東、そのオジサマは武道に長けてるわよ。気をつけなさい」

「この至近距離でナイフを当てられては、武道の達人だったとしても動けやしませんよ。それに例え1号車で暴れた所で、この計画を止めるのはもう無理ですよ」

「喋りすぎよ国東、そして油断は禁物。あなた2号車の監視はどうしたの」

「あんだけ脅せば、普通の乗客なんて動きませんよ。それに3号車に逃げても伊集院と高田がいます。何もできやしませんよ」

乗務員室の宇佐と背後にいる国東が会話している中、長崎も思索を巡らせていた。どうすればこの状態を切り抜けられるか。二対一、万事休すか。

『おい、宇佐。車内放送はどうした』

「高田ね、そっちは順調かしら?」

『こっちは制圧済みだ。お前は何をしているんだ』

「ちょっと取り込み中、富良野駅のオジサマがよりにもよって反撃してくれちゃって」

『なんだと、応援で伊集院を送るか?』

「大丈夫よ、別府はやられたけど国東が来てくれたわ。車内放送の件だけどそっちでやってもらえない?」

『了解、くれぐれも油断するなよ。あのジジイ強いからな』

「わかってるわよ」

宇佐は車内電話で3号車と連絡を取っているようだ。要するに先頭の運転席も制圧されたということになるだろう。この列車は既に敵の管理下にあるという事だ。

『テステス、あー、列車にご乗車のお客様。この列車は我々RJがジャックしました。既に運転席も制圧済みです。何もしなければ皆様には危害を加えませんので、くれぐれも大人しくしていてください』

乗客は完全にパニック状態になる。悲鳴をあげる者、泣き出す者、地獄絵図だ。

『うるせえや、だまっとけ、死にてえのか』

車内放送越しに、先ほどの金髪の物と思われる怒鳴り声が響き、車内は再び静まり返る。

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列車は真っすぐに伸びる函館本線を、札幌へ向けて走り続けていた。

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