Sunagawa Railway

改造プラレールや保存車・廃車体をメインに取り扱っています。

外伝Ⅰ第7話「止まらぬ列車」

列車の操作も効かないまま岩見沢駅を発車した「フラノラベンダーエクスプレス4号」、いや既に列車名など無いただの暴走列車だ。

長崎は慌てて運転席に戻る。鉄道公安隊での訓練で、最低限の操作位なら長崎にもできる。しかし、マスコンを戻しブレーキをかけるも列車の制動は変わらない。先程、加世田運転士が破壊しつくした運転席の様子を見ると、保安装置以外の部分もやられたとみて間違いなさそうだ。

「長崎さん、列車が扉を開いたまま走っていますがどうしたんですか」

先程乗り込んだ鉄道公安隊と共に砂川鉄道の白矢がやってきた。

「白矢君、無事だったか。運転士が機器を壊して脱出した。君は整備士の様だが、これは治せるかい?」

「これは・・・・なかなか酷い有様ですね。一応、やってみますが期待はしないでください」

「わかった、私は管理局に連絡を入れてみる」

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列車は岩見沢駅を出発し、道内一の操車場である岩見沢操車場、そして岩見沢第二機関区を通過しようとしていた。そして制御が聞かないまま列車は速度を上げていくのだった。

「こちら特急「フラノラベンダーエクスプレス4号」です。運転士の加世田が運転台を破壊、暴走させ、列車からの脱出を図りました。加世田の確保と列車の安全な停止を依頼します」

『こちら札幌鉄道管理局、長崎君だね。私は札幌中央鉄道公安室室長の鴻巣だ。加世田の確保と列車の停車依頼了解した。そちらには札幌鉄道公安機動隊による救援を送った、指揮は君がとってくれ。國鉄のためにもどうにか脱線だけは防いでくれ、よろしく頼む』

本格的な事件として扱われ始めたのか、札幌中央鉄道公安室の室長が出てきた。札幌中央鉄道公安室の室長と言えば、実質的に北海道の鉄道公安隊のトップとも言える。そして応援には札幌鉄道公安機動隊の動員も行われているという。いよいよ、大きな話となった。非番の日に何をしているのだろう。

「東京中央鉄道公安室第三警備班の長崎だ。君たちの指揮は鴻巣室長から任された。よろしく頼む」

「札幌鉄道公安機動隊の岡部です。岩見沢駅で乗り込めた人員は6名、現在は犯人の見張りに2名、1号車の乗務員室に1名、ここに3名おります」

「犯人はもう2人3号車に拘束している。各号車に1人ずつ、犯人の見張りには分散して2人、岡部君は私と一緒に行動してくれ」

「「「了解」」」

長崎は編成後方の1号車へと向かう。途中、他の公安機動隊員にも声をかけたが、まだ犯人は目覚めてないらしい。流石に思い切りやりすぎたかもしれない。

「岡部さんは札幌鉄道公安機動隊と聞きましたが、よくすぐに機動隊が出動できましたね」

「実は札幌鉄道公安機動隊の本部は札幌ではなく岩見沢にあるんですよ。駅に併設して車庫があるのと、函館本線室蘭本線の分岐点で鉄道の要衝ともなっている。そういう理由で本部を岩見沢に置いています。そのため岩見沢には鉄道公安室は無く、機動隊がその任に就いています」

「なるほど、そういわれると納得です。てっきり稲穂にあるものと思っていました」

「あそこは旅客車の基地ですし、装備を置いておくスペースも無いですね苦笑」

話しているうちに1号車に着いた。

「長崎さん、列車が再び動いたようですが」

「新町車掌、残念ながらこの列車は暴走を始めました」

「やはりそうですか、不自然な動きをしているとは思っていましたが暴走とは」

「加世田運転士とはどういう人物ですか?」

「加世田さんですか、國鉄思いの良い方だったのですが、最近は疲れているのか職場のコミュニケーションも悪く、管理局にも不満がある様でした。ということは加世田さんが……?」

「はい、彼は列車を暴走させた挙句に脱出しました」

「そう……ですか、それは残念です」

「こちらから列車の制動が聞かないか試してみようかと思いまして」

「なるほど、恐らく可能だとは思いますが。ブレーキハンドルはこちらにはありません」

「ということはマスコンを戻すくらいしか方法が無いという事ですか」

「そうなりますね、もちろんいくら鉄輪式で摩擦が少ないとはいえ、加速がなくなればスピードは落ちていくはずです」

「惰行ということですか、やってみましょう」

今まで全開だったエンジン音は聞こえなくなった。しかし、最高速度で走り続けた列車はそう簡単には止まらない。長崎はひとまず先頭の3号車へと戻ることにした。

 「白矢君、どうにかなりそうかね?」

「速度はさっきより落ちてきていますが、完全にブレーキがおかしいようで効きません。おまけにブレーキハンドルはこの状態ですし……」

ブレーキハンドルは根元の辺りから曲がる形で金属部分が歪んでいた。

「ゆくゆくスピードは落ちるでしょうが、急なカーブがあると不味いかもしれません」

函館本線はかなり高速列車を運行している線区だから、速度的には脱線はないと思うが、制御が聞いてない列車に乗客が居るというのは正直不安がぬぐえないな」

岩見沢を出発して約10分、列車は夕張川を渡っていた。

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